われわれは職人です。
仕事をしている中で当たり前のように「職人さん」と呼ばれ、自分でも「クロスの職人です」と自己紹介したりしますが、未だに職人とはどういう仕事なのかはっきりしないところがあります。
職人と言えば「採算度外視しても仕事にこだわる」「けんかっ早くてお人よし」「義理人情に厚い」など職人気質な人をイメージしますが、職人気質だから職人だという訳ではありません。
営業マンでも「けんかっ早くてお人よし」「義理人情に厚い」「採算度外視しても仕事にこだわる」ひともいることでしょう。
それに一口に職人と言ってもさまざまな分野があり、伝統工芸品の分野、建築の分野、中には食品の分野もあります。(今回職人という時には建築の職人と思ってください)
また職人とはいっても独立開業している人もいれば、従業員として雇われている人もいます。
私はわかるようでわからない、職人というものについてよく考えます。
当たり前ですが、産業革命が起きるまでは世の中の製品はすべて手作りでした。
この時代には建築家や設計士、研究者などもいなかったので、新しい技術(工法)は大工、表具師などの職人と呼ばれる人たちが考え出していたのでしょう。
道具を自分で創作工夫することも多かっただろうし、素材選びも職人の仕事ではなかったかと思います。
今の職人はどうでしょう?
道具はハイテクなものが増えて手作りすることはないし、建材に関しても寸法安定性に優れたものが増え、素材選びは今では職人の仕事ではなくなっています。
またメーカーでは標準施工法というものを指示して、技法に関してのばらつきが出ないように気を配っています。
総じていえば良くも悪くも職人の技術に頼らずに高品質なものを作ることが追求されているわけです。
これをもってして「職人はこの先もどんどん仕事が減って待遇も悪くなっていく」という人がいますが、ある部分では私も同感です。
しかし正確には「いま職人がしている仕事はより単純作業化してだれでもできるようになったり、機械化していく」ということだと思います。
誤解のないように言っておきますが、私は何も今の職人には価値がないとか、昔の職人のほうが優れているとか、今後未来がないと思っているわけではありません。
今の職人の仕事が単純化されているとは言え、昔の職人とはまた違った知識や効率性、コストパフォーマンスが求められていることも事実です。
大事なことは
「職人とはこういうものだ!職人はこういうことはやらないのだ!」という、”今までこうだったからこれからもそうだ”という凝り固まった発想は捨てて、時には
「未来の職人とはどういうものだろうか?」という想像力を働かせてみたり、
「職人が絶対やりたがらないことをあえてやってみよう!」という逆説的な発想を職人自身がやってみることではないでしょうか。